乃南アサ




はじめの一行

プロローグ

車は幅の狭い道をゆっくりと進んでいく。見慣れた町並みを、こうして乗り慣れない車の窓から眺めるのは、なんだかテレビのモニターでも覗いている気分になって、不思議なものだった。
隣で麻里子が小さく鼻をすすった。
西俊太郎は無意識のうちに深々とため息をついて、柔らかい車のシートに預けていた背中の力を抜いた。麻里子の向こう隣りにいる秀子の膝の上には、ついさっきまで六十数年間にわたって決して人目に触れることのなかった、そして、ついに外気に触れるときには一つの終わりを意味するものー父の骨が、乗っていた。

鍵(乃南アサ)

この小説、基本的にながれが時系列です。
まあ、当たり前と言えば当たり前なのですが、ここで工夫している小説はけっこう多いのですが、普通に時系列に物語が進むのもある意味新鮮です。
本書の出だしは、父の葬儀というスタート。
両親を失った、兄弟の物語です。

本書の内容

耳の聞こえない少女

本書の登場人物で最も重要な位置を占めるのが、麻里子と、俊太郎。
同じ家に暮らす妹と兄。
麻里子は耳が聞こえず、補聴器をつけていても大きな音があったとかなかったをやっと識別できるレベル。
そんな麻里子を俊太郎はずっとかわいがってきた。
しかし、両親を亡くした時にふと思う。
両親の自分への愛は、麻里子が生まれてからはずっと麻里子に向けられてきた。
そこにどこかしら、嫉妬めいた思いを持っている。
なんとなく険悪になる兄妹。
そんな時、ある事件が起こる。

麻里子のカバンから出てきた「鍵」

麻里子は川の学生カバンに切れ目が入っていることに気づく。
その切れ目を見てみると、覚えのない小さなカギが挟まっている。
自分が入れたわけでは当然なく、家族がやったわけでもない。
ふと思い出したのは、通学電車の中で知らない人が慌てて逃げるように走ってきて、自分とぶつかった時のこと。

麻里子は兄と少し険悪なムードがある中、自分は自立しなくては、と思っていた矢先である。
この鍵の謎を、一人でとこうと、思い当たるところに聞き取りを始める。
そのことがきっかけで、麻里子はとんでもない事件に巻き込まれていく。

2/3を過ぎたところから一気に加速

さて、本書を読んだ感想としては、はじめの2/3については何ともじっくりと物語が進んでいきます。
二人の兄妹の関係、さらに姉との関係、友人との関係など。
こういったことが丁寧に描かれていくと同時に、彼らの住む地で起きる通り魔事件。
だんだんと二つの関係のない話が一つに帰結していく。
その様子は、終盤の1/3で一気に話が進むわけですが、私的にははじめの2/3の部分は読むのに時間がかかりました。
グイグイ引き付けるような引力があるようには感じられず、ちょっと退屈したかな…と。

さいごの1/3は一気読みだったのと、最後の結末は、すっきりとした感じなので一冊を通してはすごく面白い小説だったわけではありますが。

家族愛とミステリー。
こんな組み合わせに関心があるとしたら、お勧めできる一冊。

Amazonでのご購入はこちら
楽天でのご購入はこちら   鍵新装版 (講談社文庫) [ 乃南アサ ]

【PR】———————————–
月々たった380円で雑誌が読み放題。
たとえば、コピーライティングで、女性誌・男性誌などをぱらぱらと見たいとか、
特定の趣味の人の話題を知りたいとか、そういったときにはとても役に立ちます。
私も契約して、どうしても参加しなければならないつまらない会議の時には、
これをiPadでぱらぱら見てます(笑)
メジャーな雑誌はけっこうそろっているので、おすすめです。




——————————————




ピックアップ記事

  1. 脳は「ものの見方」で進化する
  2. はじめに
  3. ある犬のおはなし
  4. 残酷すぎる成功法則 9割まちがえる「その常識」を科学する
  5. 成長マインドセット

関連記事

  1. 小説

    阪急電車

    はじめの一行導入阪急宝塚駅は、梅田(大阪)へ直…

  2. 小説

    不連続の世界

    はじめの1行木守り男マンションを出て住宅街を抜…

  3. 大石圭

    女奴隷は夢を見ない

    はじめの1行プロローグその朝も少女は、狭くて湿…

  4. 久坂部羊

    廃用身

    はじめの一行まえがき「廃用身」という言葉をご存…

  5. 小説

    高校事変

    はじめの一行1総理大臣の最後の日課は、午前零時…

  6. 小説

    水族館ガール

    はじめの一行プロローグああ、あくびが出る。…

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。







  1. 小説

    万能鑑定士Qの推理劇II
  2. 小説

    千里眼の復讐―クラシックシリーズ4
  3. 小説

    オー・マイ・ガアッ!
  4. 小池浩

    借金2000万円を抱えた僕にドSの宇宙さんがあえて教えなかったとんでもないこの世…
  5. ノンフィクション

    拡張の世紀
PAGE TOP