小説

水族館ガール




はじめの一行

プロローグ

ああ、あくびが出る。
由香は電話を置いて、大きく伸びをした。
面倒くさいから、打ち合わせは電話で済ませた。おそらく何の支障もない。一年前も同じようなことを喋り、同じような結論を出した。来年もそうするに違いない。
「嶋君。嶋由香くん、ちょっと来てよ」
応接室で課長が手招きしていた。猫なで声、しかも、フルネームで呼ばれる。こんな時は、いつもろくなことがない。
「早く、早く。手ぶらでいいからさ」

水族館ガール(木宮条太郎)

お仕事小説というジャンルになるのでしょうか。
表紙につられて買いました(笑)

本書の出だし、「ああ、あくびが出る」というのは、けっこう考えられた出だしじゃないでしょうか。
わかりやすい叙述ではなくて、ちょっと「あれ?」と思わせるアンバランスさ。

どこかゆったりした状況から、主人公、由香の生活は一変するのですが・・・

本書の内容

突然の出向辞令

冒頭のシーンは、物語を時系列で描いています。
何の面白みもない仕事(役所の仕事)のなかで、何の変化もない生活を送る由香。
彼女が、この課長からのお話で、水族館に出向となる。
これが実質的な物語の始まりです。

決まりきった役所の仕事、みんながスーツを着て仕事をする役所。
当たり前すぎる風景が、この課長の一言で一変してしまう。

個性豊かな人々

水族館で出会う人たちは、個性豊かな人々。
先輩は何とも取り付く島もない様子。
魚オタク的な人だったり、気難しそうな上司。

そんな中で、ここで働く人たちの、水族館にかける熱い思いを感じ取る。
それぞれがそれぞれの水族館像をもっていて、そこに向かおうと頑張っている一方、限界もある。
水族館は、営業しなくともつねに経費を食い続ける。
エサ代に、浄水や、温度管理。
もう金食い虫なわけです。

そのはざまの中で最大限、その役割を全うすべく奮闘する人たち。
そんな彼らに共感し始めたころ、ある事件が起こる。
その事件を通じて、由香は成長し、さらに水族館ガールとしての自分の立ち位置を明確にしていく。

本書のテーマ

私なりに感じ取った本書のテーマは、一つは水族館というものが見かけほど浮ついたものではないということを広く知らしめること。
そして、由香という主人公の成長を見せること。
さらに、由香の成長に応じて、周囲もまた変化していくこと。
そんなドラマが詰まった作品じゃないかと思います。

ちなみに、続編も随分と出ているようです。
由香の恋の行方も、ちょっとばかり気になります。

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