小説

水鏡推理6 クロノスタシス




はじめの一行

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向かいのデスクに、いるべきいない人がいないと意識するたび、葬儀への参列を思いだす。雨の降りしきる午後だった。灰いろの厚い雲が空を覆い、陽射しの一切を遮断していた。黄昏どきに似た暗がりばかりがひろがる。季節はまだ夏だったが、凍えそうなほど寒かった。
日野駅に近い古びた木造家屋、彼女の生まれ育った実家が、告別式の会場だった。時間を気にしたくない、彼女の両親や祖父母がそう望んだため、自宅葬になったときいた。玄関先にまでただよう香のにおいを、今でもはっきりと覚えている。

水鏡推理6 クロノスタシス(松岡圭祐)

毎回、情景描写にけっこう力が入っていますね。夏の終わりの雨の日の葬儀。とりあえずそれはわかります。
それは誰の葬儀なのか、なにがあったのか。
あるいはこのシリーズは死者が出ないミステリーというイメージもあるので、早々に葬儀シーンで常連さんはあれ?と思うかもしれませんね。

本書の内容

過労死の実態

過労死バイオマーカーという、過労死の危険度を指数で診断できる技術が開発されました。
これを厚労省が正式な基準として採用する際の可否を検討するため、そのバイオマーカーの信頼性について調査せよ。
ということで、主人公、水鏡瑞希はその調査に乗り出します。

あとは、あんなこともあって、こんなこともあって、最後にどんでん返しがあって、というなかなか起伏の激しい展開が後半に待っています。
まあどこまで話していいものやら、ということであらすじ紹介はこの辺にとどめておきます。

そんなメインのストーリーとは別に、ここには官僚の労働実態が明らかにされています。
初めて知ったのですが、国家公務員には労働基準法は当てはまらない。
ということで、過酷な労働実態があると言います。
そして仮に、過労死をしたとしても、民間企業と比べ、過労死認定が下りることは少ないといいます。

過労死をなくすための提案

そして本書後半部には、過労死バイオマーカーの検証レポートの中に過労死をなくすための提言がなされています。
もちろんそれはストーリー上の、上司への報告としてなされるのですが、ないようになった区できるポイントが多い。
たとえば、現在は従業員を解雇するのが難しい法律になっています。
そのせいで、一度雇い入れた社員は、使えない人間だったとしても企業側は解雇しにくい。
だから、企業としては、人を雇うことがリスクなのです。
そのことは、人員を増やさない方向へのバイアスとなり、職場は常に人手不足。
結局、誰かがそのあおりを受けて、過労状態に陥る、という話。

あとは、若年時には生産性に見合わない薄給が、年功によりパフォーマンスに不相応な高級となる給与制度。
年功により増加される退職金制度。
こういったことを見直さない限り、過労死を防ぐことはできない、と。

なるほどなー、と思いました。

物語としても抜群に面白く、こういった社会派の提言もある。
ついついむさぼるように読みふけった一冊です。

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