小説

グレイヴデッガー




はじめの一行

人と人の関係

本書の一行目は、未解決事件というテーマから始まります。

小説の面白さの一つは、ストーリーももちろんですし、キャラクターの個性も大事。
あとは、活き活きと描かれる、彼らの人間関係というのは、結構大事なポイントかもしれません。
こういった人間性と人間関係の描写が薄いと、軽い小説になってしまうし、
ここを丁寧に描くとどっしりとした重量感が出てくるように思います。

この冒頭の文章も、そんなキャラクターたちの様子が生き生きと表現されているように思います。

事件は未解決のまま終わろうとしていた。
警視庁人事一課監察係の剣崎主任は、本庁舎十一階にある自分のデスクにつき、苛立ちを抑えながら報告書の作成にかかっていた。パソコンのキーボードをたたく指は、ミスタイプを繰り返した。
「馬鹿げた事件だったな」
部下の西川が、誰にともなく言うのが聞こえた。剣崎より十歳も年上の西川は、普段からこちらの気に障るようなことを平気で言ってのける。それも上目遣いの一瞥を投げながら故意にやっているのだろう。

グレイブデッガー(高野和明)

情報不足が生む渇望

冒頭に「未解決事件」という気になる結論がある。
一方で、物語は登場人物の人間関係を垣間見る情景が続く。
ついつい、その未解決事件とは何ぞや?という関心が先を読もうというモチベーションになる。
著者の方が意識したかどうかはわかりませんが、そんな読ませ方がある展開のような気がします。

次へ、次へ、と読みたくなる文章には、こういったアンバランスな投げかけと、その答えの間に読ませたい内容を挟み込む。
そんな仕掛けがあるのかもしれません。

「映画的」な小説

本書もそうなのですが、著者である高野和明氏の小説というのは映画的な印象を受けるものが多い。
どうやらそれは、情景の描写の中から、登場人物の性格や人間関係、心理状態や舞台をイメージさせる表現が多いのかもしれません。
小説というと、登場人物の心の声だったり、天の声的な読者視点の部分での解説文で状況を説明することが多いように思います。
しかし、情景から推察させると、映画的な文章になるのかも、なんて思いました。

本書の内容

悪党が目覚めた?

主人公である八神俊彦は、いってみれば世間的には悪いやつです。
ただ、あるきっかけで更生したいと考えた。
その時に、白血病患者を救うため、骨髄ドナーとなることを決意した。
しかし、いよいよ移植というときに、都内で連続殺人事件が発生。

その容疑者として手配され、警察に追われる身となる。
骨髄移植に間に合わせるためには、警察に捕まっていては無理。
一人の患者を救うために、都内を逃げ回るが、そこに現れる謎の集団。
あっちからもこっちからも追われる八神。

彼が人生の禊をかけた善行に、なぜか多くの邪魔が入る。

その負ってからの追跡をかわすさまは、やはり映画的。
ドキドキ、ハラハラ。
中盤戦からは、なかなか読むのが辞められない(笑)

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