前野隆司

幸せのメカニズム 実践・幸福学入門




初めの一行

科学技術は人を幸せにしたか?

私は幸福学の研究をしています。もともとは、ロボットや脳科学の研究者でした。「前野さんがなぜ幸福の研究を?」そう聞かれることがあります。一言でいうと、ロボットの幸福よりも、まずは人間の幸福のメカニズムを明らかにしなければ、という思いに駆られたから。
若いころ、私はエンジニアでした。カメラのモーターや、ロボットハンドを作っていました。なぜエンジニアになったのか。それは、子ども時代に以下の話をよく聞いたからです。

幸せのメカニズム 実践・幸福学入門(前野隆司)

自己紹介から始まるまえがき。ありそうで意外と多くはありません。著者の前野氏は、幸福学という学問で先生をされる立場の人なので、あるいは論文もこんな感じの公正なのかもしれません。まずはその研究に至った動機やキッカケをつたえ、趣旨を伝えるという感じでしょうか。それにしても、この「科学技術は人を幸せにしたか?」という問いかけ、人によってはドキッとするのではないでしょうか。

本書の内容

「幸せ」とは何か?

私たちは日常的に、「幸せ」っていう言葉はよく使います。おいしいものを食べたとき、誰かとの友情を感じたとき、恋人と遺書にいるとき、お金を手にしたり、好きなものを買った時などなど。しかし、じゃあ「幸せ」を定義せよ、と言われるともごもごと口ごもってしまうのではないでしょうか。本書はまずはこの幸せを定義することから始まります。本書によると、古代ギリシャ・ローマでは幸福には二つの考え方があったそうです。「幸福主義」と「快楽主義」。幸福主義は人生にわたっての幸福を目指すべき、つまり長期スパンでの幸福。快楽主義というのは刹那的な快楽の繰り返しが幸福と考えるもので、短期的なモノの見方と言えるかもしれません。

また、幸せを研究対象とする場合、それを測る術が必要となります。その方法には二通りあって、主観的幸福と客観的幸福ということになります。主観的幸福というのは、個人の主観的な幸福感を、統計的・客観的に見ていこうとするもの。簡素化して言えば、「あなたの幸せ度を答えてください」的なアンケートからの研究となります。その結果、個人の主観ですかrその時々によって変化したり、何かしらの状況の影響を受けやすいむずかしさがあります。それゆえ学問の対象とはなりにくかったのですが、近年では無視するわけにもいかず盛んに研究されているようです。一方で、客観的幸福はたとえば、収入や学歴、生活状況や、健康状態などの幸福に関係しそうな指標をもとに幸福を研究するというもの。ちなみに本書では主に、主観的幸福を取り上げています。

フォーカシング・イリュージョン

本書においては、様々なところでダニエル・カーネマンが明らかにした「フォーカシング・イリュージョン」という物の見方の癖に関する記述が出てきます。人は何かに注目すると、それがあたかも大事なように見えてしまうというもの。解りやすく具体例を挙げると、「もっと収入があれば幸せになれるのに」という考え方において、「収入」にフォーカスしているけど、現実は収入が増えても幸せに離れないということがわかっています。
カーネマンの研究によると、年収7万5千ドルまでは収入に比例して感情的幸福は増大するが、7万5千ドルを超えると比例しなくなると言います。まあ7万5千ドルというと、けっこうな高給取りなのですでに満足がピークなのでは?という考え方もあるようですが、むしろ、生活に困窮している人がそこそこ豊かな暮らしになるまでは収入はとても重要である、ということではないでしょうか。それなりに人並みの暮らしを超えていくと、その先の幸せのを構成する要因は収入とは別のところにうつっていくのかもしれません。

こういったことをさらに研究していくと、「地位財」と「非地位財」という考え方での分け方が提案されました。非地位財というのは他人との相対比較とは関係なく幸せが得られるもの。具体的には、健康や自主性、社会への帰属意識、良質な環境、自由、愛情など。個人の安心・安全な生活のために重要なものです。これは幸福の持続性は高いと言われます。一方、周囲との比較により満足を得る「地位財」に関しては所得、首魁的地位、物的財などが挙げられます。個人の進化・生存競争のために重要で、幸福の持続性は低いと言われています。ここにフォーカシング・イリュージョンの罠があり、実は私たちは非地位財という「幸福度が長くつづく」ものに対しての関心をあまり持たず、幸福感があまり持たない地位財にばかりフォーカスしがちです。そして本来負うべき非地位財による幸福ではなく、刹那的な幸福を求めているのではないか、と本書は指摘します。

幸せの4つの因子

本書最大のテーマは著者が膨大な幸せにかかわるであろう因子を4つに分類わけし、その解説を行うパートです。4つの因子とは具体的には・・・

第一因子「やってみよう!」因子
・コンピテンス(私は有能である)
・社会の要請(私は社会の要請にこたえている)
・個人的成長(私のこれまでの人生は、変化、学習、成長にみちていた)
・自己実現(今の自分は「本当になりたかった自分」である)

第二因子「ありがとう!」因子(つながりと感謝の因子)
・人を喜ばせる(人の喜ぶ顔が見たい)
・愛情(私を大切に思ってくれる人たちがいる)
・感謝(私は、人生において感謝することがたくさんある)
・親切(私は日々の生活において、他者に親切にし、手助けしたいと思っている)

第三因子「なんとかなる!」因子(前向きと楽観の因子)
・楽観性(私は物事が思い通りに行くと思う)
・気持ちの切り替え(私は学校や仕事での失敗や不安な感情をあまり引きずらない)
・積極的な他者関係(私は他社との近しい関係を維持することができる)
・自己受容(自分は人生で多くのことを達成してきた)

第四因子「あなたらしく!」因子(独立とマイペースの因子)
・社会的比較至高のなさ(私は自分のすることと他人がすることをあまり比較しない)
・制約の知覚のなさ(私に何ができて何ができないかは外部の制約のせいではない)
・自己概念の明確傾向(自分自身についての信念はあまり変化しない)
・最大効果の追求(テレビを見るときはあまり頻繁にチャンネルを切り替えない)

本書ではこれらの解説が詳しく書かれています。

結局幸せって何だろう?

本書を読み終えた感想として、私が感じたことを一言で表すと、結局幸せって「気の持ちよう」なんだな、ということを感じました。そもそも、幸せという感覚は、自分の内面に芽生えるものです。それはお金があるから引き出されるわけではなく、お金がある事でたとえば心の自由を感じるとか、人に差をつけられるとか、そういう思いが前提にあって、それを幸せと感じればきっとその人は(少なくともその時点では)幸せなんじゃないかと思います。この本では詳しくは触れられてませんが、チラッと前野氏の考え方として「心というものは幻想である」という話が出ていました。なるほどな、と思ったわけです。

本書ではかなりの回数、フォーカシング・イリュージョンという言葉が出てきています。つまり、私達は幻想を負わされている、と言いたいのでしょう。一般的にこれがあれば幸せと考えられている事の多くは、誰かが作った価値観で、まさにそれはイリュージョン、幻想を見させられているのかもしれません。同じことを体験しても、同じことを見たり聞いたりしても、人によって違う解釈をします。その解釈をするフィルターをどんなものを採用するかが、実は幸福を手にすることができるかどうかの分かれ目なのではないかと感じました。

いやーー、読書って素晴らしいですね

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