小松左京

復活の日




はじめの一行

プロローグ(一九七三年三月)

「ブロー!」艦長のマクラウド大佐がいった。
「はい、艦長……」赤毛で獅子ッ鼻のイワン・ミハイロヴィッチ兵曹は、わざとロシア語でこたえて、ニヤッと笑った。―――体つきも心も無知みたいにきびしいアメリカ人の艦長に対する、それが彼の嫌がらせだった。
しかし、大男の大佐は、大男のスラブ人の言葉を無視した。―――で、兵曹はきびきびとエア・バルブをひらいて、メインタンクに、ほんのわずかの圧縮空気を吹きこんだ。彼の表現にしたがえば「コツンと一撃」してやったのだ。―――かすかに床が揺らいだような気がした。

復活の日(小松左京)

このシーン、実は物語の終盤に近いところのシーンです。ビジネス書なんかでもよく取られる手法ですが、小説においても比較的よく見かけるのはまず「結果」を見せるというパターン。変わり果てた世界が唐突にはじめに出てきて、そこまでの経緯を追っていくというパターン。見る側はいきなり終盤のシーンから、過去に戻るので一瞬混乱を起こしますが、はじめに見せられた風景が「結果」であるという前提を持つことで、その過程が気になってしょうがないから、ついつい読み進めてしまうという効果があるのかもしれません。

本書の内容

本格派パニック小説

小松左京さんと言えば、私が学生のころ、文学史で名前を聞いた作家の1人です。夏目漱石、三島由紀夫、まあそんなビッグネームと同じ並びで、比較的新しい人というところで小松左京さんの名前がありました。とはいっても、歴史の中の人という印象がぬぐえなかったわけですが、当時から『日本沈没』はかなり気になっていました。そして今、ちょうど新型コロナによる世界的な自粛の波の中で、この本がクローズアップされました。本の帯には「預言書」的な文言がある通り、ウィルスに関するパニックを描いた小説です。

読み始めると、古臭い表現に戸惑うかな・・・と思いましたが、そんな事は一切なくごく普通の現代小説として読むことができました。しかも舞台は世界をまたぎます。もはやハリウッド映画の世界観です。じつは本書を買って読み始めたとき、映画の『復活の日』を見てみました。2時間半の対策ですが、日本人よりも外人のほうが多い。かなり小説に忠実な作りだったと思うのですが、日本映画とは思えない出来だったと思います。

こんな日本離れした小松左京さんの作品ですが、日本の作家の方はどちらかというと現実にある日常とあまり離れていないところが舞台になることが多いと思います。サスペンス、お仕事小説、ホームドラマ、などなど。しかし本書は、南極基地、アメリカ、日本、など世界各地が舞台です。ちょっと大きな世界観の小説を読みたいな、という人にはお勧めできそうな一冊です。

ここからネタバレありです。ご注意を

ということで、本書をどこまでご紹介しようか悩んだのですが、ちょっとネタばれっぽいことがあるのでそれがイヤな方はこれ以上は読まないほうがいいかと思います。

本書で何が起こるかというと、ある「風邪」が流行を始めます。いえ、その前にちょっとした前兆があり、ニワトリにもなんだかわからない病気が蔓延します。この事が何を意味するかは、鋭い人はピンと来たと思うのですが、ワクチンを大量に作るとき、卵が必要なんですが、このニワトリが卵を産まなくなります。そういったところに風邪だか、インフルエンザだかがわからない病気がものすごいスピードで蔓延していきます。当初はあまり重視していなかったこの風邪、熱がひどいのですがあるタイミングで心臓に良くない影響を及ぼし、突然死のような状況に陥ったりします。これがものすごい勢いで流行するので、医療崩壊がおこり、もはや手が打てない状況になります。次第にそれは社会機能を失わせ、政治さえもストップさせてしまいます。

そのように世界中が荒廃し、ほとんどの人々が死に絶える中、南極にだけはそのウィルスは持ち込まれずにいました。南極に残る世界各国から来た約1万人の人々が、この地球に最後に残された人類となります。テレビなどの電波も消えていき、世界中から人の痕跡が消えていく中、南極の観測基地に閉じ込められた人々は、さらなる問題を抱えます。それは、かつてないほどの大地震が近々おこるという予測。もちろん南極には関係ないものの、その地震がおこると、アメリカ、ロシアの核報復システムが作動するというのです。それを阻止するために、南極からワシントン、そしてクレムリンに向かうプロジェクト。彼らは、核報復システムを止めることができるのか。

そんな物語になります。

ウィルスだけでない脅威

このお話が発表されたのが、1964年だそうです。もう50年以上前の時代に、たぶん、ウィルスが人類を駆逐するなんて言う荒唐無稽に見える発想は早々でなかったんじゃないかと思います。中身を読んでいくと、ここで取り上げられるウィルスは、実はウィルスの体をなしてない変わった存在です。割と難しい話がつらつらと書いてあるので、気になる方はぜひ読んでいただきたいと思います。そこで、そんな設定ができるというのはちょっと驚きというか、割とリアリティを感じる書きぶりに驚きです。

そして、ワクチンを作ろうにも、ニワトリが全滅している。そこに地震に核って、まあ現代日本人が恐れるものてんこ盛りですね。次々と襲い来る脅威にまさに八方塞がりの中、人類がどんな選択を行うかが本書の最大の肝です。だからタイトルは復活の日だったのでしょう。

ということで、これが予言の書だったら大変です。たぶんですが、今回のコロナのシチュエーションに一番似ているかな、と思うのが私個人的には海堂尊さんの『ナニワモンスター』じゃないかと思います。大阪は、コロナウィルスに対して独自基準を設けましたが、ナニワモンスターは大阪の独立ですからね。

復活の日に話を戻すと、この本のテーマは人間の愚かさや脆さと、一方では人間の力強さと、そんな相反する力を描いた一作じゃないかと思いますがいかがでしょうか。

いやーー、読書ってすばらしいですね。

 

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