ノンフィクション

世界は贈与でできている――資本主義の「すきま」を埋める倫理学




はじめの一行

はじめに

1990年代のスイス。
原子力エネルギーに大きく頼っているこの国では、核廃棄物の処理場が必要だった。
その建設候補地として、ある小さな村が選ばれた。
建設の可否を決める住民投票の前に、数名の経済学者が、村の住民に対して処理場受け入れに賛成か反対か、事前調査を行った。すると51パーセントの住民が「処理場を受け入れる」と答えた。

そこで経済学者たちは、一つの前提を加えたうえで、もう一度アンケートを実施した。「国が全住民に毎年、多額の補償金を支払う」という前提だ。つまり、処理場を受け入れてもらう「見返り」として住民のみなさんに大金を払いましょう、という提案を付け加えたのだ。
すると、結果は予想に反して、賛成派は51パーセントから25パーセントに半減してしまった。

世界は贈与でできている――資本主義の「すきま」を埋める倫理学(近内悠太)

今回は、書かれている内容の意味が解る部分まで、少し長めの引用をしてみました。そもそもこの一節は、別のマイケル・サンデルという方の本からの引用のようです。冒頭、こんな意外な話を持ってこられたら、その背景で何が起こっているか気になりますね。そんなことで、私は本書を買って帰ることにしました。

本書の内容

シンプルなペイ・フォワードの話ではない(ちなみに、映画ペイ・フォワードのネタバレがあるのでご注意を)

本書にも取り上げられていますが、昔、ペイ・フォワードという映画を見た記憶があります。他人に対していいことをして、そのお礼を受け取らず別の人に何かいいことをするように、という善意の連鎖を創り出そうという子どもたちの社会実験的な試みを描いた映画です。けっこうヒットしたようですから、見られた方も多いのではないでしょうか。本書のタイトル「世界は贈与でできている」というものから想像するに、きっとそういったペイ・フォワード運動を進めましょう、みたいなちょっと青臭い感じの本かな、と想像しました。しかし、それはかなり早い段階で打ち砕かれます。それは、ペイ・フォワードを仕掛けた主人公は命を落としてしまうところにある、と言います。それはなぜかというと、「この運動を始めたのは自分だ」と名乗り出たからだというのです。

著者の考える「贈与」は見返りを求めてはいけないと言います。それは、お礼の言葉という意味も含めてです。だから、感謝の念を受け取ってはいけないのだと。堂々と名乗り出て寄付をするのはここでいう贈与でなくて、名も知らぬ人からの寄付ということで匿名で行ものであれば贈与になる。一般的な考え方において、たぶん、贈与は感謝や評価といった見返りさえ受けてはいけない、というルールを意識している人はあまり多くないと思います。この考え方のベースの違いでまず私は衝撃を受けました。

その一つの象徴として、サンタクロースが挙げられます。サンタクロースはあくまで架空の登場人物。子どもたちはサンタのプレゼントに歓びますが、サンタクロースへ彼らの喜びは届けられない。ただただ、与える。この贈与の在り方ということが世界にとって、実は欠かせないものだったりするようです。

この世界を作るもの

私たちの社会は、等価交換を基本にしています。お金を払って、財やサービスを手に入れる。これは当然贈与ではありません。それ以外にも例えば、ギブ&テイクという考え方もあります。お金との交換であったり、労働や精神的な負担の交換であったり、私たちは常に何かと何かと交換しています。感謝の気持ちさえも交換の材料で、人によってはその思いを受けたくて人にプレゼントをしたりする人もいるでしょう。しかし、こういった交換の社会というのはあくまで資本主義の世界観なわけです。しかし、世の中にはそれによらないものもあるわけです。それこそが贈与。たとえば、私たちは誰かのおかげで今の生活が成り立っているという側面がないでしょうか。誰に感謝すべきかはわからないけど、誰かのおかげで今の社会システムがあったり、今の生活があったり、今の価値観があったり、いろんな意味で様々な人が作り上げた世界の恩恵を受けています。恩恵を受けているけど、感謝する対象が誰なのかが見つからない。実は世界というのは、等価交換の資本主義のスキマにこういった、「誰かはわからないけどありがたい何か」を残してくれている人がいるからこそ、今の生活を送ることができているのです。

自分が置かれた立場や、自分がやっていることが無意味に感じるとき、本書を読むと、それが何かしらの贈与として成立しているかも、なんて見てみると新たな世界を感じ取ることができるかもしれません。

いやーーー、読書って素晴らしいですね

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