伊藤計劃

虐殺器官〔新版〕




はじめの一行

第一部 1

泥に深く穿たれたトラックの轍に、小さな女の子が顔を突っ込んでいるのが見えた。

まるでアリスのように、轍の中に広がる不思議の国へ入っていこうとしているようにも見えたけれど、その後頭部はぱっくりと紅く花開いて、頭蓋の中身を空に曝している。
そこから十フィートと離れていないところに、、こんどは少年が横たわっていた。背中から入った弾丸は、少年の体内で散々跳ね回ったあと、へその近くから出ていこうと決めたようだった。

虐殺器官(伊藤計劃)

虐殺器官なんて言うタイトルと、この書き出し。
なかなかのインパクトです。
このシーンはこの後主人公の頭の中で何度も改装される、割と大事なシーン。
このけっこうキツイシーンをどこか私的に表現しているのがなんともシュール。この感性に期待も高まります。

本書の内容

近未来SF

もともと私はずいぶん前から、本書のちょっとシャレた表紙が気になっていて、読んでみたいなぁとは思っていました。しかし、タイトルの「虐殺器官」です。最近は小説も漫画も、なかなかに救いのない結末の物語がけっこうあって、私はそういうのが苦手です。最後はハッピーエンドであってほしいというのが基本的な望み。そんな私にとって、このタイトルは何とも重い。グロ表現の果てに、救いのない結末が待っていたとしたら読んだことを後悔しそう。ということで、ブックオフで安いのを見つけて「まあこの値段なら途中でやめても気にならないだろう」ということで買ってきました。

で実際の中身は、グロ表現は多少ありますが我慢できないほどでもない。で、最終的に誰がいい人で誰が悪い人といった明確な区切りがないので結末についても意外と受け入れられた感じではありました。(詳しくは書きませんが、なかなかに恐ろしい結末ではあったのですが)

なにより一番の印象は、この小説の設定が、あの911からの流れを汲んだ近未来だということ。あのようなテロ事件が起こり、アメリカを中心とした世界のテロに対する防衛は相当に発達してきた未来。個人情報のすべてが管理され、たとえば、銃なんかも本人がもつIDと銃に登録されたIDが合致しなければ作動しないのだとか。

主人公は暗殺部隊を率いる人間ですが、彼らが現場に赴く際、飛行機から降下するシーンがかなり衝撃的です。彼らは鞘とよばれるポッドに入って、飛行機から地面に降下します。その鞘というのが、ほとんどを人工筋肉でおおわれていると言います。足のようなものが生えていて、コイツが地面に着地する際のバランスを取ったり、衝撃を受け止めたりするんだそうです。そして現地で、人工筋肉は微生物による分解作用(だったと思う)で跡形もなくなるし、一部組付けられた機械部分(人工筋肉へ指令を出すコンピュータ的なモノ)は酸で溶解される。つまり降下後、乗り捨てれば自動的に跡形もなく消えてしまうのだとか。こういうギアっていうのは、今までではあまり見かけなかった構造。本書の面白さの要素の一つと言えそうです。

ある男がいる地で起こる大量虐殺

本書のあらすじは、主人公、米軍大尉クラヴィス・シェパードがある人物の暗殺命令を受けます。その名は、「ジョン・ポール」。まさにどこにでもありそうな名前なんですが、先述のような管理社会の中にいて、彼は神出鬼没。出入国履歴や搭乗者名簿に見当たらないのに、世界各地に突如として現れます。そして、彼が降り立った地では必ず何かしらの大量虐殺がおこる。その原因であるジョン・ポールの暗殺命令を受けてたびたび出動するクラヴィスですが、ミッションはことごとく失敗。彼らがジョン・ポールに近づいた、と思うお彼は忽然と姿を消すのです。この謎の男を追うこと。そして、なぜ彼の下りたつ地では大量虐殺が起こるかという謎。これらを追って、クラヴィスは世界中を駆け巡ります。

そしてついにジョン・ポールを追い詰めたときに知る真実とは。

まあ、そんなストーリー。
後はぜひ、ご一読ください。

 

いやーーー、読書って素晴らしいですね。

 

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