久坂部羊

破裂〈上〉




はじめの一行

1痛恨の症例

八階の事務所から見える阪神高速が、摂氏三十五度の熱気で歪んでいる。
大阪の夏ほど不快な暑さは、ほかにはないのではないか。アスファルトの照り返しは厳しく、緑は少なく、空気は汚れ、どぎつい看板と車の騒音が神経をいらだたせる。
松野公造は、窓から差し込む光に思わず顔をしかめた。壁際にめをそらすと、書棚にはここ二、三年に集めた医療関係の本が並んでいる。

破裂〈上〉 (久坂部洋)

初めの二行、大阪に住んでいる私は、うんうんと思わず共感してしまいましたが、他の地区の方はどんなもんなんでしょう。
場面設定から入るというのは、小説では比較的多いパターンかもしれません。奇をてらうことない始まりといえるのではないでしょうか。

本書の内容

現代版「白い巨塔」?

いつも、わりとリアリティのある設定で、フィクションなのかノンフィクションなのかわからない感じの書き方をされる久坂部洋さん。私の読んだ範囲では一貫して、医療系のドラマを描いておられます。
本書、破裂も、やたらとリアリティのある筋書き。これを読むと病院に行くのが不安になってしまうのですが・・・。

主人公の松野というのは、フリーのルポライター。
医療系のネタを追うことが多かったようですが、今回のテーマが「痛恨の症例」。
これは何かというと、医師といえど人間です。ベテランに成長する過程でかならずミスはしています。一般の仕事と違うのが、そのミスが人の生死にかかわることもある、という部分なのですが。
そして大抵の医師は、比較的心に残るまさに痛恨のミスの一度や二度はあるもののようです。
江崎はそういった症例を追っていました。
そのきっかけは、ある医師による協力があったからで、彼は現役の医師であるにもかかわらず様々なインタビューを自ら行い、そのレポートを送ってきてくれていました。
純粋に、医療業界の隠ぺい体質を暴き、より患者に優しい医療現場にしたいという思いからということです。

そういった取材を進める中で、ある症例にたどり着きました。それは助教授の手術で、基本は何でもない心臓手術だったにもかかわらず、術後数日で様態が急変、死亡に至った症例。
これに対して執刀医はまったく落ち度がなかったというが、家族は不信感を持ち、調査を始めます。
すると、いろんな疑わしき状況が出てきました。しかしそれを調べる松野とそこに協力する医師も、きな臭い空気を感じ始めます。

ざっくりいうとそんなあらすじです。
ここには全く触れていない伏線などもありますが、もしご関心のある方は是非読んでみてください。

ちなみに、本作はNHKでドラマ化されているようです。
NHK?とちょっとびっくりしたのですが、ヒットしたんでしょうか。
テレビを見ない私には、まったくわかりませんが・・・

長いのに飽きさせない

はじめて「無痛」で久坂部さんの作品に出会った私は、妙なリアリティと長いのにずっと飽きずに読めるストーリーにいつも魅了されています。まあ、だいたいゾッとする感じの、少し体温が下がるような内容が多いのですが、ついつい読んでしまいます。

そのリアリティの極みというのが、氏のデビュー作らしい『廃用身』。
内容はぶっ飛んでいたのですが、書きぶりがノンフィクションっぽかったので、てっきり本当にノンフィクション?こんなことがあっていいの?なんてビビりながら読んでいました。

廃用身

そんなリアリティを楽しめるのは久坂部さんの作品ならでは、ということでしょうか。
下巻も楽しみです。

 

いやーーー、読書って素晴らしいですね。

 

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