ノンフィクション

0番目の患者 逆説の医学史




はじめの一行

はじめに

医学は、長いあいだ、哲学や解剖学の産物だった。医学の歴史をたどる書物には必ずといっていいほど、体の不調の原因を論じる哲学的概念に最初のページが割かれている。たとえば、古代ギリシャで重んじられていた四体液説。これは、人間の体内には血液、粘液、黄胆汁、黒胆汁の四種類の体液が流れており、それらの体液のバランスが崩れると病気になるというもの。

0番目の患者 逆説の医学史 (リュック・ペリノ)

本書の前書きは、この引用部分だけではわかりにくいのですが、本書を執筆するにあたっての著者の思いが書かれています。具体的に言うと、医学に関してはたいていその病気を克服する治療法を見つけた医師や、薬の開発者が脚光を浴びます。ただ現実においては、その病気と対峙し戦ったのは患者ともいえるわけです。そして、華々しく喧伝される医学史のなかにおいては、奇跡的に治癒した人、実験台にされただけで終わってしまった人、必ず直してみせるという医師の傲慢や貪欲の犠牲になってしまった人さえいる、といいます。

なるほど、読み進めると、「え?」というような犠牲もあったりします。医学史だけに限ったことではないのでしょうが、華々しい成果の陰には多くの犠牲があったことがうかがい知れます。

本書の内容

患者の目線から見た医学史

本書のテーマは冒頭でもお話ししたとおり、患者の目線から見た医学史です。医学史の中に刻まれた名前はたいてい、その治療法を見つけた医師や薬剤師であり、その病気と対峙し、克服した患者そのものはプライバシーの問題もあるため、その名前を明らかにされていないことがほとんどです。しかし、実際のところは病気と闘ったのは、患者本人。ということで、患者の視点から様々な症例の0号患者をとりあげ、その顛末を記したのが本書です。

今は世界中でCOVID-19が大流行していますが、これにもやはり初めての患者がいるわけです。もちろん、1号患者は発症することで特定が可能かもしれませんが、本来の0号患者は無症状であった可能性もあり特定は難しいかもしれません。今までなかった病気があるときこの世界に出現したきっかけとなった0号患者について本書はおいます。

また、これはサブテーマであるのですが、製薬会社や医師の独善的なふるまいで苦しめられた患者も少なからずいる、というような印象を抱かせるパートも少なからずあります。かつて病気は「症状がでた」から病気だったわけですが、今や健康診断で、自覚症状がないにもかかわらず、前もって医師が病名を決めてしまう。この流れについて少し考えを巡らせる必要もあるのかも、なんていう思いも抱かされます。

麻酔のゼロ号患者たち

さて、本書には19の症例が小分けされて記されています。本稿ではそのうち、私が一番目を引いた麻酔について少し取り出してみたいと思います。麻酔というものが医学の世界に導入されたのは、ほんの200年くらい前です。それより前は、麻酔がなかった。別の本で読んだのを記憶していますが、当時の外科手術というのはとにかく速さ勝負だったといいます。何しろ痛いのですから。

そのころ、体を切るのは散髪屋さん。鋏を扱う仕事ということで、髪の毛も皮膚や臓器も同じと考えたのでしょうか・・・。歯を抜いたりもするようですが、これは抜歯専門の職業ができたことで分化していったようです。そんな中、笑気麻酔というものが開発されたりしてこれ、初めは見世物だったようなんですが、医学へ転用されるようになったみたいです。

麻酔というのは扱いが難しく、中毒をおこしたり大変だったようですが次第に安全に使えるようになって今に至るといいます。私は手術の経験はありませんが、親知らずの抜歯は結構大変だったのを記憶しています。それに限らず、歯科治療で麻酔なしなんて考えられませんし、それ以外でももう怖くてしょうがない。

麻酔の発明というのは、患者さんというよりやっぱり医師なり専門家の思いがあってこそだと思うのですが、痛い顔をしながらこの章を読んでいたように思います。読みながら、過去の人たちへの感謝の念を抱くことができました。

 

いやーーー、読書って素晴らしいですね。

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