原田マハ

楽園のカンヴァス




はじめの一行

生き生きとした絵画の描写

本書の始まりは、美術館にあるある絵画の描写から。

第一章パンドラの箱 二〇〇〇年倉敷

ここに、白々と青い空気をまとった一枚の絵がある。
画面に広がるのは、翼を広げて飛び立とうとするペガサス、その首に植物の蔓を投げる裸婦、彼女の足元で花を摘む裸の少年。
ペガサスも、人物像も、それぞれの身体はパウダーをはたいたように白く透明だ。細かい粒子が光を反射して一面に漂っているかのようにも見える。それほどまでに青く、白く、まぶしい画面だ。
ペガサスの背後には切り立った山が見える。生の歓びに満ち触れているはずの春の森は静寂にさらされ、生々しい命の気配はない。とすれば、これは現実世界を描いたものではなく、天上の楽園を表したものなのだろうか。あるいは、画家が夢を見たそのままの風景なのだろうか。

楽園のカンヴァス(原田マハ)

まあこれだけ生々しく絵画を描写できるということは、著者は絵に対する造詣が深いのだろうと思ったら、やはりキュレーターをやってたようで。
私なんかは、絵の事はさっぱりわかりませんが、こんなふうに絵画を見るんだな、と随分勉強になりました。
こういった描写から始まる一ページ目というのは、どことなく緊張感を演出してくれるような気がします。

何が始まるのか。ドキドキしながら読み進めました。

本書の内容

美術に関する物語

たぶん、日本の小説で美術を扱った物語は少ないと思います。
そこに関連した謎解き、そして二人の中心的人物の人間像。
全体を通して、感情のアップダウンが強烈にある小説、というより全体に張り巡らされた緊張感。
私は、そんな印象を持ちました。

あらすじ

今は日本で娘と母と暮らす織絵。
織絵は自分に心を開かない娘の扱いに苦慮しつつも、働きながら高校生の娘を育てている。
仕事は、美術館の監視員。
その仕事が、もっとも長く絵画と接することができるから。
一介の監視員に、館長から指示されたのは、ニューヨーク近代美術館のルソーの絵を借りる交渉の窓口になれというもの。

実は、織絵はかつて現在のニューヨーク近代美術館のチーフキュレータ、ティム・ブラウンから名指しで交渉の窓口として指定された。
織絵が窓口になるなら、ルソーの作品を貸してもいい。
そういう申し出だったそうだ。

実は、10数年前、彼らはあるルソーの絵の真贋をめぐって戦った仲。
そんな背景から、いまは美術の表舞台から退いていた織絵を引きずり出すかのように、ティム・ブラウンは彼女を指名した。

大体そんなところから物語は始まります。

殺人事件だけが小説じゃない

どうしても日本で売れている小説は、刑事ものが多い。
殺人事件か、恋愛ものか。
それはそれで面白いのですが、やはり飽きてくることもあるんじゃないでしょうか。
本書は、殺人もなければ、恋愛・・・はちょっとありますが、それもスパイス程度。
中心は、ルソーの絵の謎を解き明かす緊迫したシーン、未だ表舞台に出ないその絵をめぐる様々な組織の力学。
そんななかで純粋に対決する、ティムと織絵。

ちょっと日本の小説とは一線を画するストーリーがあります。
正直、私も寝食を忘れて没頭しました。
なかなかおすすめです。

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