小説

RED

はじめの一行

不穏な物語の予感・・・

主人公は、”一見”幸せな結婚を果たし、子どももいる30歳の塔子という女性。
彼女の何気ない日常は、このシーンから大きく予想外のところに動き始める。
そんな予感をさせる始まりです。

真夏の熟した日差しが降り注ぐ中、三段重ねのウェディングケーキに音もなくナイフが沈み込み、招待客が歓喜の声を上げた瞬間、私はその視線に気づいて息を呑んだ。
新郎新婦にカメラを向ける招待客の中に、まるで関心がないかのように佇んでいる彼がいた。黒いスーツに、光沢を帯びたブルーグレーのネクタイを締めている。
昔は眉にかかっていた前髪を、今は短く切って額を見せていた。スーツの上からでも、幾分か痩せたのが見て取れた。
変わっていないという意味で印象的だったのは、その目だった。

ーーー君は、聞いていた印象と、俺が受けた印象が随分違いますね。
私にそう告げた十年前と、彼の視線は何も変わっていなかった。瞳の奥に、穏やかさは感じられない。とはいえ、それが余裕のなさにはつながらず、傍からはむしろ場慣れして生活にも困っていない印象を受ける。実際、大きく踏み外していなかったら彼はそういう人だった。

RED(島本理生)

本書の内容

「ナラタージュ」の著者による本

私は読んでいませんが、映画化もされ、ヒットした小説「ナラタージュ」の著者による作品です。
著者の島本理生三の本は初めて読みましたが、さまざまな表現が文学的でいて生々しい。
ああ、すごいなぁ、と感心してしまいました。
真似ができるものならしてみたいものです。

さて、物語についてです。

主人公塔子は、イケメン、高収入な男性と結婚し、2歳の子どもをもうけた専業主婦。
旦那は優しいし、子どもも健康ですくすく育っている。
言えば、旦那夫婦との同居ではあるものの、義母は自分たちにはあまり干渉することなく、子供の面倒を見てくれたりして助かっている。

こうやって見ていると、非の付け所のないような素晴らしい生活。
しかし、旦那とはもはやセックスレス。
どこか冷めた関係。
義母にも感謝しているし、これ以上自分が何かを望む事もない。

そのはずなのに、塔子はなにか心の中にスッキリしないものを感じる。
それが冒頭で登場するかつての恋人、鞍田との再会をきっかけに、自分の中でたまっていた何かが噴き出すことになる。

塔子の成長

これは私なりのとらえ方なんですけど、これってずっと自分を抑え込んできた塔子の成長物語なんですよね。
性に対して、という意味ももちろんありますが、それだけではありません。
人として、ずっと自分の中に押し込んできたものが、男性との関係の中ではじけ飛ぶ。
そうして、やっと本当の自分に出合える、という物語。

余談ですが、男性にとっては、ちょっと耳の痛い話もあるかも・・・笑

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