小説

水鏡推理




はじめの一行

薄暗い緊張

どうも、本書の著者、松岡圭祐さんはこういった独特の薄暗い緊張感を醸す始まり方が多いような気がします。(といっても2冊しか読んでませんが・・・)
いったい何が起こるのか、という緊張と期待をうまく表現しつつ、主人公の紹介が始まります。

黄昏は厚い雨雲に覆い隠されていた。透過する微光が、ほの暗く陰鬱な空のありさまを浮かび上がらせるだけでしかない。墨を満たしたような漆黒の海原は、被災者ならずとも四年前の悪夢を肌身に感じさせる。
東北の太平洋側に面した一帯に、荒涼とした不毛尾の台地が広がる。瓦礫は見当たらない。縦横に伸びるアスファルトの路面だけが鈍い光沢を放つ。インフラ復旧は早かったときく。三百万トンを超えていた県内の災害廃棄物と津波堆積物は、四年までに除去され処理を終えていた。
それでもなお、無に帰した未開の区画には、いたるところに仮設村のプレハブが軒を連ねる。
二十五歳の澤田翔馬は、ワンボックスカーの三列シートの最後列に収まっていた。ウィンドウの外に降りかかる雨粒を、ただ無言で眺めつづける。
大学四年の時、国家公務員一般職試験に挑戦し合格した。1種やⅡ種といった区分がなくなった最初の年でもあった。かつての1種は総合職、Ⅱ種が一般職と呼ばれるようになった、通常そう考えられている。人事院によれば、公式の定義ではないそうだが。

水鏡推理(松岡圭祐)

本書の内容

社会派小説?

全体的なタッチは、重くなりすぎません。
この後出てくる瑞希という女性(たぶん、表紙のモデルは彼女)は独特のキャラクターで、はじめに出てくる澤田との絡みが結構青春してる部分はあります。
どろどろした話はある一方で、どこかさわやかさも失いません。

ざっくりしたあらすじを言うと、この澤田と瑞希が所属する部署は、民間企業の開発に対し補助金を出すかどうかを決める最終機関。
というより、その成果が疑わしい側面のある研究に関する、うそを暴くことが仕事と言ったほうがわかりやすそうです。
企業や大学は、自分たちの研究に国がお金を出すことで、その実験の成功が早まり、結果として国としての利益が得られると主張する。
しかし、国をだまして補助金をせしめるために、実験に細工をする輩もいる。
この細工を暴くこと、つまりうその補助金の申請を蹴散らすのが彼らの仕事。

事なかれ主義VS正義の味方?

従来このセクションは、官僚による事なかれ主義が横行していた。
そこに正義感あふれる瑞希が次々と不正を暴くものだから、当然部署内のバランスは崩れる。
そんな中、瑞希と澤田は孤立したり、仲間を得たり。
そんな中で一つ一つ、”事件”を解決していく物語。

「推理」と名がつくので、いわゆる殺人事件の起こるサスペンスをイメージしましたが、本書の中で殺人事件は起きません。
それでも結構面白い。
この辺りが、著者の実力なのかもしれません。

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