小説

がん消滅の罠 完全寛解の謎




はじめの一行

不思議な物語の始まり

本書の始まりはこんな感じ。
殺人事件ではなく、活人事件。
いったいどんな話なのか、ちょっと期待が高まります。

1.2016年8月3日(水) 築地 日本がんセンター研究所

「殺人事件ならぬ活人事件というわけだね」
デスクを挟んで相対する羽島悠馬は人差し指で金縁眼鏡を直すと、自分の研究室に勝手に持ち込んだイタリア製の皮張り椅子の上で楽しそうに細身の体を震わせた。
「なんだって?」聞きなれない言葉を耳にして、夏目典明は訊き返した
「君は頭だけじゃなくて耳まで悪いのかい?活人!かつ!じん!」羽鳥はそう言うと身を乗り出し、飲んでいたキャラメルマキアートのカップに結露した水滴で指を濡らすと、デスクに「活人」の文字を書いて見せた。
立派な万年筆やメモ帳が、デスクの上に整然と置かれているのにどうして水で書く……。
「まあ、そういえないこともない」夏目は部分的な同意を示した。活人事件などという言葉を耳にするのは初めてだったが、それに対して異議を唱えるのはやめた。高校時代からかれこれ二十年を超える付き合いだ。ここで下手に反応しては、待ってみましたとばかりに、話を回りくどくすることは目に見えている。研究者としては有能な男だが、持って回った口調で一席ぶちたがるのが昔からの悪い癖だった。

がん消滅の罠 完全寛解の謎(岩木一麻)

本書の内容

このミス大賞

本書は、『このミステリーがすごい』の大賞作品。
医療サスペンス×このミスといえば、海堂尊さんの「チーム・バチスタの栄光」が印象深い。
そこには、「白鳥」というちょっと嫌みなキャラクターが出てきますが、本作に出る「羽島」はそれとちょっとダブってしまうのは私だけでしょうか。

本作品の中心では、基本的に殺人事件は起きず、まさに冒頭でいう活人事件が起こる。
いえ、それさえあるかどうかもわかりません。
引用個所に出てきた、夏目、羽鳥、そして生命保険会社に勤める森川が見つけた奇妙な一致。
この偶然に興味を惹かれ、調べていくうちに驚くような人物にたどり着く。

というのも、森川が務める生命保険会社では、不思議な現象に少し違和感を感じた。
ある貧しい主婦、小暮では生活に見合わない生命保険を契約していた。
金額は高額ではあるものの、契約後間もないころにがんが発生。
余命宣告を受けて、3000万円を超える保険金を受け取った。
その根拠は、死亡せずとも余命6か月となれば保険金を受け取ることができる、リビングニーズ特約だ。

しかし、その後小倉はがんが治ってしまった。
確かに喜ばしいことだが、末期のがんがきれいさっぱり治ってしまうことにどこか不自然さを感じる。
森川は、旧友の夏目に協力を請い、その真相を探ろうとする。
けっかとして、常識では考えられない仮説が次々とたてられていき・・・
という感じです。

普通には終わらない

本書の面白さは、最終局面にあります。
あまり多くは語りませんが、最後まで気が抜けません。

とちゅう、医学的な説明が退屈に感じるところもあるかもしれませんが、ぜひ手に取ったなら最後まで読んでいただきたいところです。

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