はじめの一行
暗転
歩道へ降りる短い階段に一歩を踏み出したとき、足がずぶりと泥にのめりこむような感覚をおぼえた。
まただ。須田知美はそう感じた。
耳鳴りがする。視界に霧がかかったようだった。目黒通りにつらなるクルマのオレンジがかったテールランプが妙に美しく思える。点滅する歩行者用信号、向かいのビルのショーウィンドウやクルマのメタリックなパーツに反射する陽の光。さまざまな光がすべての時間の流れを飲みこむ。
なにもきこえなくなった。身体が妙に軽い。子供の手を離れてしまった風船のように、全身が浮き上がっていく。
風景が揺れていた。横断歩道を渡る人の流れが、上から下へ向かっている。身体が大きく傾いていた。だが、何も感じない。そのまま、身体は空気の中を漂っていく。ゆっくりと、宙に投げ出されていく……。
衝撃を感じ、知美は息を呑んだ。
肩を誰かにつかまれていた。ふいに、身体の重さを感じた。
ビルの出口の階段で、知美は転げ落ちる寸前にまで体勢を崩していた。
本作も、なかなかスリリングに始まります。
もともと、千里眼の2作目。
続きではあるのですが、新たな登場人物登場です。
イキナリのこのバイオレンスな状況から、知美はどうなっていくのでしょうか・・・。
ついつい先が気になります。
本書の内容
千里眼の2作目
本書は、以前ご紹介した「千里眼」という小説の続編です。
そんなに新しい小説ではないのですが、当時は映像化もなされたヒット作のようです。
この松岡圭祐さんという著者の本は、ほかのものも何作かのシリーズ化されているものも多く、なかなかに人気が高いのでしょう。
本作も御多分に漏れず、数編の続編が出ています。
ただ、タイトルに「完全版」などと出ているので、「あれ?」と思っていたら、どうも大人の事情でもともと出版されていたものから大幅に書き直したようです。
というのも、もともとは2作目も映像化が前提で書かれたのですが、実際には著者の意図した脚本通りには作られなかった。
こんなの、俺の作品じゃねー!といったかどうかは知りませんが、そんな背景もあってかなりの書き直しをして、ほぼ新しいストーリーになったようです。
著者は、あとがきの中で、前の本ではなく新しい完全版を読んでほしい、と訴えています。
岬美由紀の活躍
さて、本書ではだ一作で活躍した美由紀がまたも所狭しと活躍します。
もともと前作の事件から、岬美由紀は政治家のメンタルをケアする立場にいます。
おかげで、政治家が病気にふすことも減り、また美由紀に対して嘘が付けないので不祥事が事前に明るみに出る。
政治が浄化されつつあるのですが、そこで美由紀はODA支援を予定しているある国の視察に同行する。
そこである事件をやらかしちゃう。
岬の立場は悪くなるのですが、実はそれは仕組まれたことだった・・・。
日本のみならず、世界を動かす裏の組織が描いたシナリオ通りに動かされる美由紀。
いえ、美由紀だけでなく、世の中はその組織の思うがままに動いている。
そしてその組織の正体は・・・?
美由紀の行く末は・・・?
まあ、息もつかせぬ展開で、あっという間に読み終えてしまいました(笑)
残念ながら本書で結論は出ず、次に続く。
こりゃあ、病みつきになりますね・・・。
Amazonでのご購入はこちら
楽天でのご購入はこちら 千里眼ミドリの猿完全版 (角川文庫) [ 松岡圭祐 ]
この記事へのコメントはありません。