佐藤青南

ヴィジュアル・クリフ 行動心理捜査官・楯岡絵麻




はじめの一行

第一章

1

小谷功が玄関先でローファーに踵をねじ込んでいると、背後から妻の美千代の声がした。
「お出かけですか」
台所から顔だけをのぞかせている。肩がもぞもぞと動くのは、濡れた手をエプロンで拭っているのだろう。
「悪いか」
「別に悪くはありませんけども」
「けど、なんだ」
不機嫌をあらわに吐き捨てる。
「なんでもありませんよ。そんないい方しなくっても……」
「行ってくる」
小谷はゆっくりと立ち上がった。腰を浮かせるその瞬間だけ、スローモーションのような動きになる。三十代半ばで初めてやって以来、ぎっくり腰が癖になっている。立ったり座ったりするだけでこんな風に慎重を要するなんて、若いころは考えもしなかった。大気の状態が不安定になると、ひざもしくしくと痛む。年を取るとつくづく思う。人間の肉体というのは消耗品だ。
「お戻りは何時ごろ?」
「知らん。戻りたいときに戻る」
引き戸に手をかけた。
「行ってらっしゃいませ。今日も掘り出し物があるといいですね」
妻の言葉に皮肉めいた響きを感じて、自然と鼻に皺が寄る。
乱暴な都の締め方で怒りを表明し、自宅を後にした。

ヴィジュアル・クリフ 行動心理捜査官・楯岡絵麻(佐藤青南)

シリーズも6作目に入ると、物語の導入はどこかおっとりしてますね。
しいて言えば、今までのおなじみのキャラクターをいきなり出さないことで、読み手にちょっとした揺さぶりをかける効果があるのでしょうか。
実は、この本を読み終えて、冒頭部分に戻ってくると、ここに出てくる「小谷」なる人物、果たして誰だっけ?と思うのですが(笑)

本書の内容

今回のキーは師匠

相手の微細な動き(マイクロジェスチャー)で、うそを見抜くという楯岡絵麻、通称エンマ様が主人公。
この特殊なスキルを使い、今までの絵麻はどちらかといえば、取調室でその本領を発揮してきました。
しかし、本作では取調室のシーンはほとんど出てきません。
絵麻は外に出ます。

そして今回、絵麻の前に立ちはだかるのは、かつて師と仰いだ、大学時代の先生。
捜査線上に浮かんだ先生の名前を見て絵麻は愕然とする。
それでも、彼女は先生のもとに通う。
たった一つの真実を明らかにするために。

私の関心ごとは・・・

この手のシリーズものにありがちなのが、主人公の恋。
実は、鉄壁の女とも言えそうな絵麻もどうやらちょっと気になる存在があるっぽい。
同僚の西野ですね。
こことのもどかしい関係が、だんだんと気になりだすんですが、今回はそこに進展はあるのかないのか。
読み手としては、とっとと引っ付いちゃいなよ、と思ってしまうのですが、そうなると物語は続かない。
微妙な距離感を保っていくわけです。

なんとなくですが、次回作あたりで西野がピンチになるとか、そういうストーリーになりそうな気もしますが、いかがですか?(笑)

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