はじめの1行
木守り男
マンションを出て住宅街を抜け、踏切を越えるとそこはもう川べりだ。
都会の川のせいか、あまり存在感はない。もう少し大きな川であれば、近づくにつれなんとなくその気配を感じる物なのに、ちょろちょろとコンクリートの大きな溝の底のほうで澱んでいる川は、すっかり飼い慣らされてあきらめているように見える。
川は連続している。
多聞はいつも川べりを散歩する度にそう考える。
川に限って中断などはあり得ない。地表からは見えなくても、ビルの谷間や道路の底を川は連続している。いびつでつぎはぎだらけの東京、脈絡のない地表を皮だけはいつも連続していて、必ず出口を見つけ出すのだ。
本書は、五篇の短編を収録した短編集。
物語そのものは不連続ですが、一つ共通するのは登場する主人公が「多聞」という男であるという点。
その一作目の冒頭が、ここに引用したものです。
丹念に「川」のことを語っていますが、川の物語ではありません。
これは何かのメタファーなのかどうかはわかりませんが、どことなくつかみどころのない、じっとりとした感じを受けるのは私だけでしょうか。
本書の内容
不連続の物語
本書は紹介分によると、ホラーという風に分類されているようです。
たしかに、不可解な出来事がエピソードごとに起こりますが、一般的な怖い話か?といえばそうストレートでもない。
なんとなくぞわっとするということはあるのですが。
この主人公の多聞という男の周りには、何かと不思議なことが起こると言います。
そして彼は、どこかひょうひょうとしていてフラッとそういう世界に橋を踏み入れてしまいます。
どことなく、昭和な風情が漂う舞台設定の中で、多聞が出会うちょっと不思議で、ちょっと怖い世界が描かれています。
つかみどころがない・・・?
全体を読んでみて、それなりの起承転結はあるのですが、どことなくつかみどころがない。
そう感じたのは自分だけかな?とおもって、Amazonのレビューを見ていると、そういった人多数。
たぶん、多くの人にとってつかみどころのない作品なのでしょう。
かといってつまらないというわけでもない。
どことなく現代風ではない情景が頭に浮かぶなかで、きっとこの物語にはいろんな仕掛けがあるに違いない。
そう感じるのは私だけではないのではないでしょうか。
小説家というのは、その手のわかりにくい仕掛けを組み込む人がけっこう多い気がします。
何度か読んでみると見え始める様々な糸が見えてくるのかもしれません。
この記事へのコメントはありません。