はじめの一行
鈴木
街を眺めながら鈴木は、昆虫のことを考えた。夜だというのに街は明るく、騒がしい。派手なネオンや街明かりが照り、どこを眺めても人ばかりだった。けばけばしい色をした昆虫がうごめいているようにしか見えない。不気味さを感じて鈴木は、大学の教授の言葉を思い出した。十年以上前、学生の頃に聞いた言葉だ。
「これだけ個体と個体が接近して、生活する動物は珍しいね。人間というのは哺乳類じゃなくて、むしろ虫に近いんだよ」とその教授は誇らしげに言い切った。
初めの章は、主人公であろう「鈴木」の視点で語られます。このようなイメージが次々と浮かぶものの、彼自身はけっこう大変な現場にいるわけなのですが・・・。
本書の内容
堅気の鈴木さんが巻き込まれるダークな世界
主人公であろう鈴木さんは、ある目的でアンダーグラウンドな世界に足を踏み入れました。その目的というのが亡くした妻の仇。ある組織のバカ息子にひき殺された妻の仇討ちをするため、その息子の属する組織《令嬢》に足を踏み入れる。これまでは、街中で少女を誘い薬を売りつけるような仕事を請け負ってきたが、いよいよ組織の一員として本格的に採用される関門が用意された。あるカップルを殺せという。これまで鈴木は、自分が罪に手を染めてきたことは薄々感づいていたものの、そのことをあえて見ないようにしてきた。しかし、さすがに自分の手で人を殺めるというのは・・・とできればそれが避けられないかと思案する。
一方、この物語の中心人物として、身体能力が高く、良くしゃべる「蝉」と、相手を自殺に追い込むことを特技とする「鯨」の世界観がそれぞれ表現されている。それぞれがそれぞれの人生を歩む中で、それぞれの道がある一点で交差する。
殺し屋が出てくるだけに、表現としてはちょっとバイオレンスな内容も含んでおり、そこについて私はちょっとはらはらしたものです。それでも何とか読み進めると、結末としてはちょっとしたどんでん返しのようなものがあるかもしれません。
半分までは少し時間がかかりましたが、半分すぎるとついつい先を読みたくなってあっという間でした。
全体的にどこかどんより暗い印象が強いのですが、妙な抜け方というか明るい部分もある。ある意味、岩西というキャラとか、亡霊に悩まされる殺し屋とか、どことなくギャグのようでギャグでないところも。
そんなこともあって、好き嫌いはわかれるところだと思いますが、けっこう個性的な世界観。私個人的には、わりと普通に人が殺されてしまうところにちょっと「いいのか?」と思ってしまうところがあるのですが、ハードボイルドチックな小説の世界ではそれも赦されるのでしょう。
幻想の世界であるような、けどリアルにあってもおかしくなさそうな、そんなおどろおどろしさを感じる一冊でした。
ちなみにこれ、他の作品と三部作になってるのだとか。お好きな方は要チェックですね。
いやーー、読書って素晴らしいですね。
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