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ステレオタイプの科学――「社会の刷り込み」は成果にどう影響し、わたしたちは何ができるのか




はじめの一行

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わたしは黒人なんだーーー。はじめて沿う認識した時のことを、今もよく覚えている。七歳か八歳のときだ。明日から夏休みだと、わくわくしながら下校する道すがら、衝撃的な事実を知らされた。「黒人」の子どもは水曜の午後以外、効率プールを使えないというのだ。だからその夏、私たちは毎週木曜日になると隊列を組み、水着をきつく巻いたタオルを抱えて、聖なるプールへと歩いていった。

ステレオタイプの科学――「社会の刷り込み」は成果にどう影響し、わたしたちは何ができるのか(クロード・スティール)

そこそこ専門的な本書なのですが、微妙に個人的な感情の入り混じったまえがき。著者が黒人として生まれて、そういった中でいろんな差別的な行為を受けてきて、そういった行為や言動が自分たちのパフォーマンスにどんな影響を与えるのか。そういった関心を持って、この「ステレオタイプ」についての研究を始めたことが明らかにされます。

一冊の本のテーマを選ぶに際して、自分の人生とクロスさせて考える方は多いと思うのですが、本書に関しては著者の思いはことさら大きなものと考えられそうです。

本書の内容

一冊丸ごとステレオタイプ

ステレオタイプというのは、ごく簡単に言うと根拠がない思い込みで、たとえば、「女性は数学が苦手」とか、「黒人は運動能力が高い」とか、ウソかホントかはわからないけどみんながなんとなく、うんうん、とうなずきそうな話。まあそういった思い込みが、世論を創ったりするという意味では弊害があるわけですが、厄介なことにもっとヤヤコシイ話があります。それは、そういう思い込みが、その思い込みに応じた結果を生み出すということです。

たとえば、平均的な2つのクラスを受け持つ先生に、Aのクラスは優秀で伸びる子どもたちを集めたと伝えます。一方Bのクラスはちょっと残念な子供たちと伝えます。すると何が起こるかというと、Aクラスはどんどん成績がのび、Bクラスはそうではない。実際は両方のクラスはランダムに選出した平均的なクラスであったにもかかわらず、です。これは先生の思い込みが、生徒の扱いに変化を生み、「優秀な子供」として扱われた子供は、扱われたように成長する。そんな事が起こっていると言います。

逆に言うと、社会的な刷り込みである「ステレオタイプ」は、人をその評価に従わせている可能性もありそうです。本書はそんな、ステレオタイプと、その影響にフォーカスした一冊です。

とはいえ、このシンプルな心理作用でまるまる一冊本を書いてしまうというのも、読者の視点からするとけっこう大変だったんじゃないかと思います。というのも文面には、少し冗長なシーンも感じられてちょっときつかった感じはあります。読みやすい内容でしたが、特別、ステレオタイプに関心の強い人でない場合は、このボリューム感には二の足を踏むこともあるかもしれません。

何が起こっているかを知る

本書のなかでは、ステレオタイプの効果を確認する実験結果が多数載せられています。たとえば、ステレオタイプの洗脳にハマった人も、そのステレオタイプによる思い込みである事を確認できれば、そのわなから抜け出せるということもあるようです。私たちは実生活の中で、「〇〇とは、◇◇なもの」という公式を見つけたときには、逆に気を付けたほうがいいのかもしれません。それを乗り越えたときに、例えば偉大な発明ができるかもしれません。たとえば、「夜は暗いもの」という思い込みに抵抗して、電球が生まれました。これと同じで、この世間にある公式に反旗を翻した人こそが、歴史に名を刻むような活躍を生み出すのではないでしょうか。

こういったステレオタイプで世界を見ないようにする。一人一人がそんな注意をすることで、世界はもっと進化していくのかもしれません。

 

いやーー、読書って素晴らしいですね。

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