はじめの一行
はじめに――――「民主的なリーダーシップ」とは何か
もしもリーダーが部下を指導していることをとくに意識しておらず、部下のほうも、リーダーに指導されているとは意識しないで自然に従っているのであれば、リーダーシップが問題になることはないでしょう。しかし、それが必ずしもリーダーと部下との関係が良好であるということを意味しないことがあります。従来通用していたリーダーシップについての常識が通用しないということに、リーダーも部下も気づいていないだけかもしれないからです。
いきなり一般的なリーダーシップに関する通説へのアンチテーゼです。大人しい文章に見えますが、行っていることはけっこう過激なのかもしれません。従来型のリーダーシップになじめない人にとって、この数行というのはけっこう共感するものがあるのではないかと思うまえがきです。
本書の内容
「嫌われる勇気」著者による初めてのリーダーシップ論
未だ売れ続けているという、「嫌われる勇気」。こちらは、フロイト、ユングと並んで世界的には有名なアドラーによる心理学を解説した本でした。
当時日本ではあまりメジャーではなかったアドラー心理学を一躍、スタンダードにしてしまったのですからすごい影響力です。
アドラー心理学というのは読んでみると、ほとんど自己啓発書。
それを分かりやすく解説した本ですから、売れないわけがありません。
で、その著者、岸見一郎先生が今回テーマに取り上げたのはリーダーシップに関する内容です。
一般的なリーダーのイメージってどんなものでしょうか?
強くて、グイグイみんなを引っ張っていくカリスマがあって、話もうまい、という感じでしょうか。
しかし、岸見先生の言うリーダーは少し違った印象です。
それをまとめたのがこの一冊といえるでしょう。
前半は、雑誌に執筆していたコラムをまとめ、後半戦は解説などが書かれています。
目次に見るリーダーの資質
本書はまず第1章の目次を見ると、著者である岸見先生の考えるリーダーシップ像がイメージしやすくなります。
・カリスマはいらない
・尊敬は矯正できない
・叱るのをやめよう
・ほめるのをやめよう
・部下を勇気づけよう
・貢献についての思い違い
・部下を尊敬、信頼しよう
・競争のない職場
・幸福であるために働く
・貢献感のある働き方
・リーダーの在り方について
・リーダーができること、できないこと
そして、第2章については、困りごとに対する返答のような内容が中心になっています。
・リーダーに向いていない?
・リーダーの孤独
・自分を他人と比べてしまう時
・会社を継ぐのがつらい
・リーダーでいるのがツラい
・幸福を売ろう
・嫌われてはいけない
・自分ができることを考えよう
・笑いのある職場
・丁寧・親切・寛大
・手柄の横取りをしない
・部下のせいにしない
・空気を換える勇気
なぜほめてはいけないのか?
ところで、結構気になるのがタイトルの「ほめてはいけない」という文字。
近年、部下を「褒めて育てる」なんていう考え方がけっこう一般的で、褒めてはいけないといわれると、ちょっと違和感を感じてしまいます。
しかし考えてみれば、人を指導するのに「叱る」「褒める」の二元論で考えるのって考えてみれば単純化しすぎなのかもしれません。
本書でいうところの意図は、そもそも褒めるという行為は目上の人が目下の人に行うこと。
ある意味失礼でもあるわけです。
たとえば、ちゃんとできていて、できることが当たり前になっている人に、そのことを褒めると「バカにするな!」という思いが沸き上がってくることがあるんじゃないでしょうか。
そういえば、「親業」で有名なトマス・ゴードン博士も子どもとのコミュニケーションにおいて、「ほめる」という行為はけっこう難しいということを書いておられたような気がします。
じゃあ、どうすればいいの?という話ですよね。
本書では、勇気づけよう、としています。
その最もシンプルな方法は、「ありがとう」ということ。
その理由や詳しい説明は、本書をご覧いただければと思うのですが、なるほど、と思わせられる内容でした。
いやーーー、読書って素晴らしいですね。
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