はじめの一行
はじめに:生命の原則にあらがって生きるために
1976年に出版された『利己的な遺伝子』の中で、リチャード・ドーキンス氏は「すべての生物は、遺伝子を選ぶための生存機械だ」と記しました。なぜ世の中から争いはなくならないのか、なぜ男は浮気をするのかといった人間の行動に対する疑問を、自らのコピーを増やそうとする「遺伝子の利己性」という観点からすべて解説し、世界中に大きな衝撃を与えました。つまるところすべての行動は利己的な性質を持つ遺伝子を選ぶための手段に過ぎないという見方です。
本書における重要なテーマというか、冒頭にテーゼを掲げこの後に続く文章でアンチテーゼを掲げます。そして、じゃあ一体真実はどこにあるのか、というかたちで内容に突入していきます。
疑問を呈して、話を進めていくというのはけっこう惹きつけられる文章になりますね。
本書の内容
人の営みも自然の原則の中にある
日頃、生活する中で、世の中は自然の摂理で動いている、といわれてもピンとこないのが現代人じゃないかと思います。暗い夜は明かりをつけるし、夜起きて朝寝る人もいるし、本能的な欲求が少し鈍感になっていたりズレている人もいたりします。とくに、日中会社などで社会的な暮らしをしていると、どうも自然とは切り離された、別のルールで動いてるかのように思います。例えば会社の経営を「自然の法則に従って」なんていうと、変人扱いされるシーンもあるかもしれません。
とはいえ、どんなに疎遠であったとしても、私たちは自然の中で生き、自然の法則の中で生きています。たとえば、自然と私たちは種を保存するための行動をとるわけで、それはまさに自然の法則。ただ、自然とは違う文脈で成り立っているように見える社会の中では、その自然の法則を無視しがちなのですが、それでも根底には自然の法則が流れている。本書はそんなことを思い出させてくれる良書だと思います。
一番印象に残ったのは、多様性という話。生物というのは常に進化の芽を持っているものです。なぜならば、進化しなければいずれ滅びるからです。そのための試作品というわけではないのでしょうが、いろんな形で私たちの遺伝子は普通でないものを作り出します。例えばがん細胞などはそんなものの一つ。これは人間の中では毎日一定数つくられています。時代の変化の中でこの細胞がたまたま役に立つようなことがあって、次の時代の人を作る重要な役割をする、ということがあるのかもしれません。また、LGBTなどにおいてもわずかではあるものの、遺伝子の変化が認められるといいます。それはすなわち、人の進化の過程と言えるのかもしれません。
こんな話を読むと、ガンダムの「ニュータイプ」を思い出しますが、マイノリティが徐々にマジョリティになっていく過程をあるいは私たちは目撃するのかもしれません。もちろん、普通はこういった変化は何世代にもわたるのでしょうが、比較的短期間で出現することもあるのかもしれません。
そう言う意味では多様性を受け入れるというよりかは、多様性というのは種の保存のためにはあたりまえ、ということがあります。近年脚光を浴びるSDGsについても生命科学からすればあるべき方向に動いていると思えるものがいくつかあるのかもしれません。
判断が難しい時は原理原則を基準にしよう
様々な生命学的エピソードと、今まさに現実で起こっていることを照らし合わせ、それが生命科学的にあり得る方向に動いていることを確認しながら、そういった自然の法則、原理原則を学ぶことが大事と感じさせられます。ビジネスの最前線における話もまた、その根っこには自然の法則が少なからずかかわっているのだから。本書では生命科学のみならず、物理の世界など様々なジャンルが解き明かした自然の法則(たとえばエントロピーの増大則)なども取り上げてその社会への影響を解説してくれます。決して難しくならないように配慮されており、比較的すいすい読むことができました。何か悩みがあるとすれば、本書における自然の法則と照らして、その抜け道を考えてみるのもいいかもしれません。本書は、生命科学を基盤にした、自己啓発書と言えるかもしれません
いやーーー、読書って素晴らしいですね。
この記事へのコメントはありません。