小説

プロパガンダゲーム

はじめの一行

宣伝と戦争

このまま何も言わなかったら、葬式が始まりそうだ。
誰に命令されたわけでもないのに、暗い色のスーツで身を固め、黙って俯いている学生たちの姿を見ながら、今井貴也はそう思った。10人に満たない若者たちを収容するには、あまりにも広い待合室。淡い水色のワイシャツにピンクのネクタイを締めた自分は、明らかに周囲から浮いている。だが、まさにこうなる事が目的だったから、別に心配はしていない。

プロパガンダゲーム(根本聡一郎)

冒頭のシーンは、大手広告代理店の新人採用の試験会場のシーンが始まります。本書の7割くらいの舞台はこの会社の中。ちょっと緊張したシーンからのスタートは、この後にどんな物語が展開されるかの期待感をくすぐります。

本書の内容

ある大手広告代理店の採用試験

本書の物語は、ある大手広告代理店の採用試験を描いたものです。そしてその内容はかなりぶっ飛んだもの。それは、志望者が政府チームとレジスタンスチームに分かれて国民を扇動するという内容。政府チームは戦争を行うという方向へ国民の意思を動かすプロパガンダを仕掛け、レジスタンス側は逆に戦争反対の意見を促すプロパガンダを仕掛けます。結果としての、国民投票でその結果が出てくるというもの。「国民」はアルバイトのような形で集められた老若男女100人。この100人を扇動すべく二つのチームに分けて戦います。

そのプロパガンダを創り出すゲームが本書の内容の多くを占めますが、そのあと起こることも物語には重要な要素になってきます。

正直なところ、読み始めの感覚として、「広告代理店の採用試験として戦争の可否を国民を扇動して判定する」なんて言う話に違和感があると言えばあるのですが、私に関していうと「まあ小説だし、そう言う設定なんだろうな」となんとなく受入れながら読んでいましたが、ここは一般的な常識感フル稼働で読むのがよさそうです。仮に自分が新卒採用者で、その試験に戦争を反対するか肯定するかの扇動をするなんて……。正直、もうちょっとマシなテーマもあるでしょう、って感じですね。

広告やマーケティングにおける心理効果

さて、本書においては、たとえば初頭効果とか、単純接触効果とか、広告・マーケティングにおけるいろんな心理学的なテクニックもポロリ、ポロリ、と出てきます。学生さんたち、けっこうちゃんと勉強してるんだなぁと思いましたが、まったくそういう世界を知らない人にとってはそんな知識も楽しいかもしれません。ちょっとした知的好奇心を満たす話が出てきますし、それは物語のために作られたものではなく、一般的にも信じられている内容なので、勉強にもなります。まあ、マーケティングの勉強を本格的にやってる人にとっては、基本中の基本なんだと思いますが。そういった知識を学んだことのない方は、そんな読み方もできて面白いかもしれません。

さて、本書は政府が勝つか、レジスタンスが勝つか、というところでも手に汗握るものがありますが、物語はそこで終わりません。良かったらその最後まで、目撃者となってみてはいかがでしょうか。

 

いやーーー、読書って素晴らしいですね。

 

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