はじめの一行
プロローグ
ーーー今年は本当に大活躍でしたね。
DJの弾んだ低音の声がカーラジオから流れてきた。
ーーーありがとうございます。
ーーー作詞も作曲も自分でされているということですが、いつから音楽の世界でやっていこうと思ったんですか?
ーーー私の場合はけっこう遅くて、中学生の頃父親がギターを…………ガガッ…………先ほどの打席ではチャンスで凡退をしているだけに、ここはどうしてもランナーを返したいところです。
始まりは、カーラジオから聞こえる会話。
この話は、本書を読み進めていくと意外と大事なシーンだったりしますが、それがわかるのはだいぶ後になってから。
いろんな伏線がある小説なので、あまり多くは書きませんが、「運転者」というタイトルと関係があるのかないのかわからない話で始まると、どこに連れていかれるんだろう?というワクワクが出てきますね。
本書の内容
自己啓発小説
本書の内容をざっくりいうと、まさに自己啓発小説といった感じでしょうか。
自己啓発小説と言えば、ガネーシャが出てくる夢をかなえるゾウが超有名ですね。
自己啓発と言っても、「成功哲学」みたいに、一定の成功へ向かうための啓発というよりも、人生の見えない仕組みがここに表現されているように思います。
あらすじとしては、主人公は自分の素に不幸ばかり起こると嘆く保険セールスマン。
そこに、タクシーがやってきて彼はそれに乗ることになります。
そのタクシーがなんとも怪しい。
なにしろ、主人公の周囲で起こっていることを全て言い当てる。
そして、主人公にとって良い選択へ導こうとする。
しかし、主人公はそれにこたえることができない。
なぜならば、運の種をことごとく見逃しているから。
いえ、見逃しているというより、すべてを悪い側面から見ているのかもしれません。
そうやって見逃しているラッキーについて、運転手は丁寧に説明します。
物事を表面的な、また今だけの判断でみてはいけない。
それが本当に幸福なのか不幸なのかはその時点ではわからないから。
実はこの話は、幸運を学術的に研究する人の間でもよく言われる話。
たとえば、ある電車に乗り遅れて、商談がポシャッタとしましょう。
表面的には不幸そのものです。
しかし、その電車に乗り遅れなければ、実は自分は何かしらの事故に巻き込まれていたかもしれない、という可能性はあるわけです。
ところがそのことはその選択を取らなければわからない。
だから、今目の前に起きていることがラッキーなのかそうでないかは、判断がつかないものなのです。
そういったことから始まり、様々な私たちの常識を覆すような考え方を、小説の主人公の目を通して知らせてくださいます。
そしてこの話は時空を越えます。
ここから先は、ぜひ本書を手に取って読んでいただきたいと思います。
素敵な小説です。
いやーーー、読書って素晴らしいですね。
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