はじめの一行
禁猟区 1
長い前髪が、皿の料理に触れそうだ。
「ねえ」
若山直子は思わず眉をひそめて、その前髪に話しかけた。
「前から言おうと思ってたんだけど、何とかならないの、その髪」
前かがみにな手スプーンを動かしていた彼が「え」と顔を上げた。
料理を目一杯に頬張っているために、脂肪のない頬が大きく膨らんで、一瞬、子どものように幼く見える。ただし、やはり前髪が邪魔だ。わざと不揃いにカットしてある金色の髪が鼻先まで伸びているせいで、せっかくのきれいな顔も半分近くが隠れてしまっている。
長い前髪の話から入る本書の一行目。
その時イメージしたのは、どちらかというとちょっともさっとした女性の雰囲気。
しかし実際のところは、ホストクラブのお兄ちゃん。
なんともどんでん返しを食らいます。
そして、若山直子はそこそこの年齢の女警察官。
不思議な設定です。
本書の内容
警察小説ではあるけれど…
本書の特徴は、警察小説なんですが、事件は内側で起こること。
つまり、警察内部で起こる不祥事がテーマ。
そんな短編が4編収録されています。
「禁猟区」というタイトルは、冒頭の一遍で、その物語の中にでてくるホストクラブの名前。
警察官の不祥事と、それを追う監察官のお話。
監察官というのは、警察の風紀を監督する部署。
そこに配属された途端、友達がよそよそしくなるとか、なかなか難しい立場にあるようです。
四ペンの物語の唯一の共通点が登場人物で、主役なのかよくわかりませんが、その経過を「沼尻いくみ」という若い監察官の目で見ていくことになります。
全体としては、サスペンスというほど大げさではない。
じわじわと迫りくる捜査の手、という独特の渋い展開になっているような気がします。
物語として一番盛り上がるのは、最終話でしょうか。
主人公…?っぽい、沼尻いくみがストーカー被害に遭います。
その意外な相手とは…?という感じです。
全体として、ぼやーッとした感じで、物語は抑揚なく進みます。
かといって、読むのが苦痛というわけでもなく、そこそこ引き込まれながら読んでしまいます。
けどどんなはなしだっけ?と振り返っても、今一つ起承転結が見えないというか、じわじわくる話、という感じになっております。
不思議な魅力の小説でした。
いやーーー、読書って素晴らしいですね。
この記事へのコメントはありません。